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広島旅行(3)_8年目の歌碑

3月中旬、学生さんたちが一番少ない時期だったんだろうか。人影も、一つ二つ・・・並木道の葉はすっかり落ちてまだ新芽も見えない。あの夏のきらめく緑が嘘のようだ。

ちょっとそこまで買い物に来たという風情で、日傘をゆらゆらさせていたYさん・・・話を聞けば、本当に、ご主人には、「ちょっと出てくる」と言って駅まで送ってもらったのだそう・・・まさか新幹線に乗って広島まで来ているとは思いもよらないでしょう、と涼しく笑って、こちらが驚いた。
電車に乗り遅れた、と汗だくだったKさん。そのKさん迎えに行くために、私はこの坂をフーフー行ったり来たりしていたんだっけ。坂、きつかったよね。こんなに駅から近かったっけ。全然きつくないじゃん。

歌碑はどの辺だったかな。途中、案内板を見るけれど「吉田拓郎歌碑」なんて書いていない・・そりゃそうか。
探しまくってウロウロするのも、遠くに見える人影捕まえて聞くのも恥ずかしい。見つからなかったらどうしよう・・・と、あら!坂を上ったら、すぐそこにあった。なんだ、わかりやすい場所に。

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2008年8月2日。炎天下。
わーっ、こんなに立派なんだ!大きい!見たとたん、驚きの歓声があがった。歌碑といったら、普通、石碑に歌詞が書いてあるだけのものが多いじゃない。こんなふうに、本人の写真を沢山貼ったパネルのような歌碑、見たことない。
裏、表、何度も往復して、触ってみたり、写真を撮ったり・・・思いがけず出会った初対面のMさんには、歌碑を前にした全員集合の写真も撮っていただいた。


あの時、私たち、なんでここまで来たのだろう。広島修道大に拓郎の歌碑が出来て、その除幕式に拓郎が出席するらしい。そんな噂をどこで知ったのだろう。「らしい」「来るわけない」「来たらいいね」、その程度のことで、広島まで行こうと決めたのは、どうしてだったんだろう。
特に呼びかけたわけでもなく、行くの?あ、じゃ、一緒に、ということになって、行くと決めたら、「来るかもしれない」が「絶対来る!」に変わって、気が付けば、一緒に自転車置き場で並んでいたんだよね。

前年の2007年、ツアーが中断したあと、拓郎は姿を見せていなかった。「歩道橋の上で」というツアーの模様を納めたDVDと、途中までのCDと、雑文集を、私達に届けたまま。
沈黙を守る拓郎が、こういう席に顔を出す?ひと目でも姿を見ることが出来たら・・・それだけの思いで、駆り立てられるようにやってきたのだった。

何人くらいの人が並んでいたんだろう。ぎっしりと幾つもの列が出来ていたような記憶があるのだけど。レポートを書いたのに、消してしまった。ただ覚えてるのは、柵にしがみついて除幕式の始まりを待っていたら・・・もう始まっていたのかもしれない・・・あたりがざわざわし始め、どこからともなく、あの車だ!拓郎だ!という声が聞こえてきて・・・・すーっと
回ってきた黒い車、最初に島ちゃんが降りてきたのだっけ。拓郎は、どんなふうに歩いてきたんだろう。気が付けば、そこに拓郎がいた。

サングラスをかけ、胸元に赤い花をつけた半袖の黒いシャツ。伸びる腕が真っ白で、細くて細くて。現れた拓郎の鮮烈な印象が忘れられない。拓郎って、こんなに細かった?色、白かった?
受け取ったオレンジ色の花束を高々と掲げ、去っていった。ほんの数分。一瞬の拓郎。
どんな挨拶だったのか、何を話したのか、もう覚えちゃいないのに、目を瞑ると、あの折れそうに細く白かった腕が浮かぶ。

誘われて、出待ちをしたことはある。車の中の拓郎を遠くから、たぶんあれがそうなのだろう、という程度には、見た。どこぞの店で遭遇した、握手をした、今はあの店が行きつけらしい・・・教えてもらって一緒に行ったところで、「私が」遭遇するわけなどなく、あの席に座っていたんだよ、という話を聞くだけだ。
ファンミーティングにもハワイにも縁がない。一般ファンでしかない私が、初めて見た、ステージ以外の拓郎。一瞬なのに、長いステージを見終わったあとのような幸福感でいっぱいだった。

歌碑は変わらずにそこにある。あの時、春は桜、秋は紅葉に彩られた歌碑を想像したけれど、周りには何もなかったんだ。ただ、空の下、芝生の上に並んでいるだけ。
触ってみると、心なしか埃っぽいような。磨く人なんているわけないのだし。今、どれだけの人がこの歌碑の前に足を止めるのだろう。私のような物好きが、年に何人訪れるのか。

以前、YouTubeで、拓郎に憧れて広島修道大に入学した若者、というのを見た。ワオ!と思った。
この歌碑の行方なんて、考えないことにしよう。
バイバイ、またね。いつまた来るかわからないけれど、来た時は、また同じにあってね。


寂しいほど静かな坂を下りてゆく。左手に一軒レストランが見える。あの店でビール飲んだよね。ここでお別れという地元のNさんと乾杯するために。ビール一杯ずつとウインナーひと皿、みんなでつついた。Hさんが自慢げに取り出した発売されたばかりのiPhoneが珍しく、画面をひゅっと大きくしてみては、感嘆の声をあげる。帰りの電車が迫っているというのに、わざわざ立ち寄って挨拶をして下さったSさん。Sさんも初対面だった。
この歌碑除幕式にあったたくさんの出会いと再会。あの頃、私達は、06つま恋の余韻と、「Life is a Voyage」の行方を探して、みんなでいることを求めていたのかもしれない。一人では心細く、絶対にまた拓郎に会えると信じる心を分かち合いたくて。03年も、このあとも、何度も・・・

市内に出ると、Nさんお勧めのお好み焼き屋で、飲んで食べて、帰りに「力」の前を通ったけれど、お腹いっぱいで食べられないのを残念がって、河合楽器に喜んで、天満屋では応援団よろしく、のっそのっそとフロア押し歩いて、傍から見たら、何やってんだろの4人組は、その後、カラオケ屋に行くのです。
Kさんの恒例「替え歌」にお腹抱えて笑い転げた・・・

あぁ、楽しい・・・ウキウキと歩いていたら、ん?街から外れてない?遠くに山が見えるような・・・ぎゃ!私、高速バスに乗って高知に行かなきゃならないのに!時間が!Hさんが即調べてくれて、路面電車に私を押し込む。このまま乗って、紙屋町西というところで降りて下さいね。わけわからず、ハイ、ハイ、と頷き、みんなに見送られ、手を振る。なんだか故郷を離れる人みたい・・・「またね」・・・閉まるドア・・・その時の光景が、今でも焼きついて、テレビなどで、たまたま広島の路面電車が映ると、懐かしさにいっぱいになる。
ここがどこで、そこがいくつ目なのかもわからず、ちゃんと降りられるか、心配でたまらなかったけど、無事着いて、デパートの中にあるバスセンター?お土産横目に、とにかく突っ走る。携帯が鳴る。誰よ、こんな時に。
20分くらい前だったのかしら?フー、間に合った。
瀬戸内海を渡る頃は、すっかり日も落ちて、海に浮かぶ船、向こう岸の家々の灯りが、キラキラと綺麗だった。

歌碑をもう一度見に行った・・・それだけで、こんなにたくさんのことを思い出す。私には、あんなに素敵な拓郎があったんだ。楽しい仲間があの時もいたんだ。
いいじゃないの、特別なことが何もなくても。

思えば、Kさんにとって、それが最後の拓郎になったのですね。09年、2列目が当たった!とKさんが大喜びで待ち望んでいた「つま恋」は中止となり、その後病に倒れた彼は、すぐに余命宣告されてしまったから。
最後に書いてくれたメール。「自分は、緑がいっぱいのコンサートには行かれないかもしれないけど・・・」

あの日、暑い暑い、とみんなで並んだ自転車置き場には、数台のバイクが止まったきり。ここでコンサートがあったのかもしれないんだよ、とKさんに呼びかける。
あの替え歌、何度ANNDXに投稿しようと思ったことか。もう一度みんなで笑い転げたかった。
もしも、あなたがここを読んでいるなら、あなた達と会いたいと彼が望んでいたことを、お伝えしたいです。

様々な拓郎、それぞれの心に残る拓郎。
Kさんの語る拓郎は、いつも楽しくて、元気いっぱいだった。あの除幕式の拓郎は、どんなふうに彼の中に刻まれたのだろうか。
でも、よかったよね。会えたのだもの。一瞬の拓郎に。

帰りのアストラムラインは、その車両に私しか乗っていなかった・・・


さて、もう少し時間がある。比治山に登ろうか・・・あの「丘」は、比治山だとも黄金山だとも、二つの説がある。中村雅俊さんとの広島の旅で、丘に登り、「ここじゃない!」と叫んだのは、どちらだったのだろう・・・どっちだって構いやしない。登れば、そこが私の「丘」なのだ!なんちって。

と、急に空が黒くなり、雨がポツリポツリ降り出す。人気のない山道は、怖いようだ・・・。昼間見た祈念館の再現ビデオ、焼けただれ、血だらけの姿で、比治山に逃げるイラストが、突然浮かんでくる。たくさんの人が、比治山に横たわり、治療を待っていた・・・ここはそういう山でもあったのだ・・・やめよう。路面電車で戻る。


にわか雨の上がった明るい街。小腹が空いてきたような。お昼、ケーキだけだったものね。息子との約束7時までは、だいぶ時間がある。「力」でうどん、食べちゃおうか。
番組の真似をして「肉うどん」と「おはぎ」の取り合わせにしたいけど、食べられるかな、と思ったら、ミニ、というのがあるのですね。これなら、私でも。


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うどんは柔らかく、お汁は薄味。煮付けた肉は、西のこちらではやっぱり「牛」で、甘くて。これが拓郎のソウルフードの一つ。美味しいね。
おはぎも小ぶりで、ほんのりと食べやすい。隣の女性は、肉うどんにおはぎを二つ。やはりこの組み合わせは王道なんだ。
拓郎が食べたものを食べる・・・それだけで幸せ。なんて単純なんでしょう。


息子が予約してくれた店で食べる牡蠣。食べたことがないほど大きかった。もうお酒も飲めると注文したレモンハイ。広島レモンたっぷりで、酸っぱかった。
遠回りをして帰る途中、夜空に浮かぶ原爆ドームを見る。
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